がん予防のための栄養とファスティング・ミミッキング・ダイエット(FMD)
私たちの研究チームでは、ファスティング・ミミッキング・ダイエット(FMD:断食模倣食)が がんの予防および治療にどのような効果をもたらすかを検証する臨床試験を進めています。 初期の結果から見ても、FMDはがんと戦うための新たで有力な手段となる可能性を秘めています。
「長生きできる食べ方(ロンジェビティ・ダイエット)」は、がん予防にも一般的に適用できますが、
特にBRCA遺伝子など、がんリスクを高める遺伝子変異を持つ人々にとっては、
より大きな効果が期待できる可能性があります。
遺伝性がんを防ぐための方法として、予防的乳房切除などの外科的手段がありますが、
栄養療法やFMDもまた、補助的な役割を果たす可能性があります。
さらに、がんの寛解後(再発がない状態)にある患者に対しても、
再発のリスクを減らす可能性が示唆されています。
ただし、栄養療法をもって外科的治療(予防的乳房切除など)を代替することは推奨されません。
その有効性はまだ十分に確立されていないためです。


IGF-1(インスリン様成長因子-1)
IGF-1(インスリン様成長因子-1)は、がんや老化に関連するホルモンです。 臨床試験では、FMDを3サイクル実施した後にIGF-1値が効果的に低下することが確認されています。 特に、初期値が225 ng/mLを超える高リスク群において顕著な結果が得られました。
がんリスクが高い人のための食事ガイドライン
重度または慢性的な疾患(がん・糖尿病・心血管疾患・自己免疫疾患・神経変性疾患)を抱える人は、
専門医の許可なしにFMDを行ってはいけません。
治療目的で行う場合は、専門医およびFMDや治療的断食に詳しい栄養士の指導のもとで行う必要があります。
現在、疾患治療のためのFMDは、臨床試験の範囲内で行うことが推奨されています。
ただし、他に有効な選択肢がなく、患者が臨床試験やFDA(米国食品医薬品局)などの承認を待てない場合は、
主治医の判断により例外的に実施されることがあります。
実践的な10のポイント
1 ロンジェビティ・ダイエットを基本にする
たんぱく質摂取量を、体重1ポンドあたり約0.31グラム/日の下限に設定します。
2 魚の摂取を制限する
魚は週に1〜2回までに抑え、それ以外は植物性食品中心の食事を心がけます。
3 糖分を減らす
糖分は極力少なくし、パスタやパンの摂取も控えめに。 血糖値を安全な範囲でできるだけ低く保つことが重要です。
4 健康的な体重を維持する
BMI(体格指数)を適正範囲に維持します。
5 適度な運動
定期的に体を動かすことが、代謝と免疫の両方に良い影響を与えます。
6 5日間のFMDを行う
体重や健康状態に応じて、1〜3か月ごとに1回(非常に健康な人は3〜6か月ごと)、 またはがんリスクが高い・肥満傾向のある人は毎月1回を目安に行います。 マウス実験では、FMDは化学療法と同等の効果を示し、 しかも正常な細胞や臓器を保護することがわかっています。
7 ビタミン・ミネラルを十分に
オメガ3・オメガ6脂肪酸を含む必須脂肪酸、 ビタミン・ミネラルを多く含む野菜(ブロッコリー、ニンジン、ピーマン、トマト、ヒヨコ豆、レンズ豆、エンドウ豆、黒豆など) および魚(サーモン、アンチョビなど)を取り入れましょう。 免疫系はがんに対抗する最前線の防御機構です。 栄養のバランスを保ちながら、免疫を弱らせず、ホルモンの乱れを防ぐ食事が必要です。
8 ビタミンCの活用
腫瘍専門医と相談の上、半年に1回、数週間にわたり1日6gのビタミンCまたはEster-C®を摂取する方法を検討します。 複数の研究で、ビタミンCにはがん抑制作用があることが示されています(ただし効果には議論があります)。 この用量での短期摂取では重大な副作用は報告されていません。 必要に応じて、医師と相談のうえ長期摂取を検討してもよいでしょう。
9 良質な脂肪を摂る
オリーブオイル・ナッツ・魚由来の良質な脂肪をしっかり摂り、 飽和脂肪(特に動物性・一部植物性)を控えるようにします。
10 アルコールを避ける
できるだけアルコールを控えることが推奨されます。
この章は、がんのリスクを減らすための「食」と「断食」の科学的アプローチをまとめたものであり、 断食を“我慢”ではなく、“細胞の再生スイッチ”として活用する方法を示しています。

